電子工学の飛躍的な発展、普及に伴い、電荷をベースとした電子工学の限界も見えてきました。 そこで、スピントロニクスや光エレクトロニクスという、新たな分野が注目されています。 これらは、電子のスピンや光を利用することで、従来の電子工学では実現できなかった機能や性能を実現しようという試みです。
本研究室では、光と磁気の相互作用(磁気光学効果)を用いて、光をコントロールする材料・デバイスの創出を目指しています。原理的に、光の強度や進行方向を極めて高速 (GHzオーダー)に変化させることができるため、情報処理、通信、センシング、表示デバイス等の性能を大幅に向上させる事ができると期待されます。また、新しい磁界センサ等への応用も試みています。
磁気光学材料のランダム性を用いた高速物理乱数生成器
乱数は,暗号化通信等の鍵や,シミュレーション・機械学習のシードとして重要です.そのため,原理的に完全にランダム(真正乱数)で,大量かつ高速に乱数を生成する手段が求められています.
磁性体内部には,磁区(磁化が揃った領域)と呼ばれる構造があります.一部の磁性ガーネットの磁区は,熱エネルギー等によってランダムに形成されます.本研究室では,これを乱数生成のノイズ源として利用できることを見出しました.特に磁気光学材料であるガーネットの磁区は,高性能化が著しいイメージセンサを用いてデジタル化できるため,システム全体として小型で高速な,これまでにない乱数生成器を実現できます.現在は,材料,デバイス構造,乱数生成アルゴリズムの観点で開発を進めています.
高速磁区制御機能を持つ光人工磁気格子の形成と固体光偏向素子への応用
磁性ガーネット膜の磁区構造を応力と磁場でコントロールすることにより、一般的なデバイスより1000倍高速な光偏向素子(レーザースキャナ)の開発を目指しています。
光を曲げるには、一般に鏡の角度をコントロールするデバイスが用いられますが、可動部品があるため、最高でも10kHz程度の動作速度にとどまっています。本研究室では、磁性体と光との相互作用により起こる回折現象(ファラデー回折)と、磁性体と応力との相互作用(逆磁歪効果)を応用し、電圧により動作する可動部の無い光偏向器の原理実証に成功しました。
この成果は、MMM2017、およびAIP Advances(https://aip.scitation.org/doi/full/10.1063/1.5007261)で発表しております。
磁気光学効果により光の進行方向を制御するデバイスを試作しました.
試作したデバイスによる光制御のデモです.
2mm角の膜とコンパクトな磁界印加装置で,光の進行方向を連続的に制御できています.
可動部がないため耐久性に優れ,原理的にはナノ秒オーダーでのスキャン,スイッチングが可能です.将来的には,レーザー測域センサや全光型交換器などに応用できると考えています.
無電解めっきによるマグへマイトの合成と磁性フォトニック結晶への応用
一般に磁気光学材料として用いられる磁性ガーネットは、600~1000℃という高い温度での結晶化熱処理を必要とします。このことは磁気光学材料を他の材料と組み合わせる際の課題となっており、低い温度で磁気光学材料を形成する方法が求められています。
本研究室では、比較的高い透過率と磁気光学効果を持つマグへマイト(γ‐Fe2O3)膜を、80℃程度の水溶液中で合成することに成功しました。この技術を用い、3次元磁性フォトニック結晶を作製いたしました。これらの成果は、MMM2016、及びAIP Advances(https://aip.scitation.org/doi/full/10.1063/1.4973694)で発表しております。
酸化亜鉛による磁気光学効果の変調に関する研究
酸化亜鉛は、大きな励起子束縛エネルギー、高い透過率、磁性伝導電子など、ユニークな特徴を持つワイドギャップ半導体です。本研究室では、この酸化亜鉛を代表的な磁気光学材料である磁性ガーネット膜上に製膜すると、酸化亜鉛のバンドエッジにおいて磁気光学効果が変調されることを明らかにしました。この成果は、MMM2016、及びAIP Advances(http://aip.scitation.org/doi/full/10.1063/1.4976952)で発表しております。